「ね、なぜ旅に出るの?」 「苦しいからさ」 「あなたの(苦しい)は、おきまりで、ちっとも信用できません」/ 斉藤壮馬 1st Live quantum stranger(s)@舞浜アンフィシアター

毎日通っている地元の人も一体何の施設か知らないようなライブハウスとか、すべての鉄がさび付いているようなライブハウスとか、ずーっと電車の音が聞こえているライブハウスとか、そういうところで音楽をきいてきた。
そういう人間がアンフィシアターに初めて行き、えっ開演までこんな椅子に座らせていただけるの?手すりに飲み物を収納させていただけるの?と戸惑いながら斉藤壮馬さんのファーストライブに行ってきたよ、という話。
※バンドをやりたい男とバンドをやっている男に甘い。

 

なんとなく男性声優のコンサートというものは、それなりにお金のかかった舞台装置があったり、かわいくて華やかな世界が構築されているのだと、(そういうものが得意ではないなりの過敏さで)思っていたのだが、会場に入ってみたらステージ上には何もない。背面にはモニターがあるけれど、本当にそれしかない。
それしかない、というか、それだけで完結する、それだけで十分成立する時間だった。

 

暗転、モニターに映し出された時計の針が進み、背景の空の色が暗くなり、少しずつ夜が深まっていく。せり出している楕円形のステージではなく、奥に設置されたドラムセットの前に立って、「夜明けはまだ」ではじまる。
本人名義でのライブが初めてとはいえ、この何倍も広い会場のど真ん中で歌ってきた人なのでそれほど気負っていないのではないかと思っていたけれど、暗転してバンドメンバーに続いて出てきた本人は、少し緊張しているような感じがあった。
そのあとステージ前方に出てきての「デート」もちょっと硬さが残っていたけれど、奥のステージに戻ってギターを弾きながらの「デラシネ」でスイッチが入った感じがした。
生バンドと背景の映像と照明のみで歌がつづく。わずかな、曲紹介とひとこと程度のMCでも、「バンドをやっていたので」「バンド小僧なので」と繰り返すほど、バンドアピールがすごい。過去にバンドをやっていたというエピソードは色々なところで聞いていたし、音源も本人の作詞作曲やギタ—演奏が含まれているのでそれなりに理解はしていたけれど、実際にめちゃくちゃ楽しそうにギターを弾いて歌う姿をみて、ああこの人思ってたよりバンドがやりたかった人なんだな、と思った。
っていうか文学青年がテレキャス(サーフグリーン)弾いてんの反則じゃない!?かと思えばギターチェンジの時にスタッフに「ありがとうございます」って言ってるのマイクが拾ってるし、ちょっと設定盛りすぎじゃない??加点しかない!文系サブカル女を必ず殺す、という強い意志を感じる。(文系サブカル女なので被害妄想がひどい)

 

音源ではゲストヴォーカルが入っていた「Insence」は、その声を流しつつも基本的には本人がすべて歌っていた。テンポちょっと落としてたかも。特に声色を露骨に変えたりすることもなく、音源とは別のアレンジになっていておもしろかった。

ゲームやアニメ等の「コンテンツのライブ/イベントの歌唱パート」では、キャラになりきる/キャラに寄せることが命題になる。そこに立っているのは本人だけど本人じゃない、キャラだけどキャラじゃない、だからこそどちらでもある存在になる。その「どちらでもある人」の行うパフォーマンスによってファンを喜ばせることも、(目的なのか結果なのかはこの際さておき)ついてまわるテーマだと思う。ファンサービスについての本人の談からも、意識的に楽しんでそういう要素を取り込むことができる人なのだとわかる。
けれど今回のライブは、すごく高いクオリティで演奏や歌唱を提示した上で「やりたいこと」に徹している感じがあった。見た目や、軽快でサービス多めのトーク込みの自分の価値を理解した上で、それらを一端捨てた感じがあった。
曲間でコールがあっても「イヤモニ入っててなにいってるかわかりませーん」と笑いに昇華しつつ流して、「バンド楽しいでーす!」と自我を出してはしゃいでいた。普段のトークはそつなくこなしている印象なので、「キャラ」を離れた斉藤壮馬さん、想像よりもプリミティブでびっくりした。MCで話すことも別段なくて、「楽しい」だけが前面に出ていた。めちゃくちゃいいよその感じ…音楽はそれで進んでほしい…。
それなのにMCが徹頭徹尾敬語なの、アンバランスで心地よい。水飲みながら、「みなさんを独占するっていうのもなかなか貴重な機会ですけども」ってしれっと言ってたけど。こわい。すごい。なんの才能なの。

 

事前にDVD化の告知をされていたこともあって、特にライブで初出しになるような情報はない、という話から、次の音源の予定なども特に出ていないけれどこれからも自分のペースでやっていくので、「穏やかに応援していただければ」と言っていた。よく言うフレーズ、でもその穏やかさの下に、かつてバンドできなかった男子特有のこじらせマグマがあることをもう知ってしまった。
最高じゃない?
一回火がついちゃったらもうあとは止まらなくなるんじゃないかな、だといいな。

 

歌詞を書くときも、自分ではなくほかの誰かの物語を描いてる…的なこと言っていたので、その物語(コンテンツ)ごとの「誰か」(キャラクター)になって歌うのかと思っていた。そういうことが器用にできるタイプの人だし、そうしても一定のクオリティのものは出せたと思う。
けれどステージにいたのは、地方でバンドやってたけれどうまく続けられなくて、他の道に進んで成功しつつあるけれど、バンドが忘れられない少年だった。

 

モニターに歌詞がひたすら出る映像で間をつなぎ、黒ずくめの衣装に着替えて、楕円形のステージのセンターからせり上がってくる。椅子とアコギ。
「しーっ」の声からの弾き語りで「C」、「ペンギン・サナトリウム」と続く。「C」の穏やかににこやかに狂ってる感じ、「ペンギン・サナトリウム」のやわらかく孤独な感じ、このあたりのアンバランスさが成立しているところが強みだと思う。持ち曲のボリュームを考えたら全部演奏するとわかったと思うんだけど、あまり何も考えていなくて、「C」が聴けると思っていなかったのでうれしかった…!
そしてバンドアレンジの「るつぼ」のあとギターを置いて席を離れ、奥のステージでギター持ち替えて「レミニセンス」へ。シングル版のレミニセンスめちゃくちゃエモいし、赤いライトあびてギタリストと向かい合ってギタ—弾いてるし、叫ぶし、客席なんか1ミリも見ないし、顔見えないけど今最高に気持ちいいんでしょ、って伝わるような瞬間だった。
ステージ上にソロシンガー斉藤壮馬とバックバンドがいるんじゃなくて、自分がone of themになる「バンド」をやりたかったんだと思うし、できてたと思う。山梨県でくすぶっていた斉藤少年が、安定した演奏力のプロのミュージシャンと一緒にバンドやってるのは、大昔に貼った伏線の回収をしたような感じがする。
このライブを「旅」だと何度も本人が繰り返していたけれど、バンドをやりたい斉藤少年も旅をしていた。長い旅だったろう。手元で色を変えられるペンライトは、普段から好きだと主張していたからだろう、一面のグリーンだった。ひとつの旅の終わりに少年が見る景色としては、悪くなかったのでは。

 

レミング、愛、オベリスク」の「どぼんどぼん」のところ声を荒げていて楽しそうだった。そもそも芝居の延長に歌がある人ではなくて、歌が芝居とは別の確固たる位置にあって、その歌が芽を出す場所と時期を待ってたんだろうと思った。
「生きるの大変だなって時期もあった」けどここまで来られてとっても楽しい、というようなことを後半言っていたので余計に。
とはいえやっぱり声の仕事をしてることの強みがめちゃくちゃ歌に出てる。喉も強いし、どうやってこんな声出してるの…みたいな技術も歌の一部に昇華されている。

 

最後は「結晶世界」で本編終了。
照明やモニターの映像が、音楽ありきで、邪魔しないいい演出だった。
レミニセンスでライトが赤いのは究極に""わかってる""感じだし、ネオンっぽいロゴが流れてるのもかわいかった。デートはあえての垢抜けなさのはず…。たった一日の、一公演のために、無駄を排除しつつも丁寧につくられた舞台だった。

アンコールは全員Tシャツで。事前に発表されたグッズに半袖Tシャツがあった時から、「アンコールで着るときは上になにか羽織ってくるだろうな…」と思っていたんだけど、案の定アイボリー?のカーディガン羽織って出てきて安心した。
なんで安心したのかは自分でもわからない。

 

sunday morning(catastrophe)」で盛り上がって、はじまりの歌で旅を一旦終える、というような話からアンコールのラストは「フィッシュストーリー」。
歌いおわったあとバンドメンバーがステージ前方に出てきて、一列に並ぶ。
マイクを置いて肉声で「本日はまことにありがとうございました!」と挨拶して、バンドメンバーを返した後、なぜか一人でだらっと喋っていたのが唯一のファンサだった気がする。客席から呼びかける声に対して「そーまくんですよー」って言っていた。そこまでは「(みんなの求める)そーまくん」ではなかったのだ…みたいなことを思ってしまった。解放されていたものが日常に戻ってきた感じ、これもまたひとつの旅の終わり。

 

公演後の本人のツイート、「バンドは最高ですね」って言う結論に至ってて笑った。よかったね…


夜明けはまだ
デート
デラシネ
光は水のよう
スプートニク
Incense
スタンドアローン
C
ペンギン・サナトリウム
るつぼ
レミニセンス
影踏み
ヒカリ断ツ雨
レミング、愛、オベリスク
結晶世界

sunday morning(catastrophe)
フィッシュストーリー